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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)3651号 判決

原告

吉川嘉一

ほか一名

被告

三和交通株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告吉川嘉一に対し、各自金三〇九万〇三六四円及び内金二七九万〇三六四円に対する平成四年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告吉川富美子に対し、各自金二二五万六二三〇円及び内金二〇五万六二三〇円に対する平成四年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、原告ら各勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告吉川嘉一に対し、各自金三五七万八四九四円及び内金三二七万八四九四円に対する平成四年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告吉川富美子に対し、各自金二八三万五八四〇円及び内金二五八万五八四〇円に対する平成四年八月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、追突事故で傷害を負った原告らが、加害車両の運転者に対し民法七〇九条に基づき、保有者に対し自賠法三条に基づき、それぞれ損害賠償請求した事案である。

一  争いのない事実など(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。)

1  事故の発生

(1) 発生日時 平成四年八月二九日午後四時五五分ころ

(2) 発生場所 京都市南区西九条東比永城町七七番地先路上(以下「本件事故現場」という。)

(3) 加害車両 被告望月芳雄(以下「被告望月」という。)運転の普通乗用自動車(京都五五く一〇四、タクシー、以下「被告車」という。)

(4) 被害者 訴外吉川恒男運転の普通乗用自動車(横浜ち六三二〇、以下「原告車」という。)に同乗中の原告ら

(5) 事故態様 本件事故現場で被告車が訴外松本孝則運転の普通乗用自動車(以下「松本車」という。)に追突し、押し出された松本車が原告車に追突したもの

2  責任原因

(1) 被告望月

本件事故は、被告望月の前方不注視の過失により発生したものである。

(2) 被告三和交通株式会社(以下「被告会社」という。)被告会社は、被告車の保有者である。

3  原告吉川嘉一(以下「原告嘉一」という。)の受傷、治療経過など(甲三の1ないし3、五の1、九、弁論の全趣旨)

(1) 傷病名

頸部捻挫

(2) 治療機関・通院状況

〈1〉 九条病院

通院 平成四年八月二九日(実日数一日)

〈2〉 協愛病院

通院 平成四年八月三〇日から平成五年一〇月七日まで(実日数二八九日)

(3) 自賠責保険で、自賠法施行令二条別表後遺障害等級表一四級一〇号の後遺障害の認定を受けた。

4  原告吉川富美子(以下「原告富美子」という。)の受傷、治療経過など(甲四の1ないし3、五の2)

(1) 傷病名

頸部捻挫、腰部挫傷、僧帽筋部分断裂

(2) 治療機関・通院状況

〈1〉 九条病院

通院 平成四年八月二九日(実日数一日)

〈2〉 協愛病院

入院 平成四年八月三一日から同年一〇月六日まで(三七日間)

通院 平成四年八月三〇日

同年一〇月七日から平成五年一〇月七日まで(実日数二六〇日)

5  損害の填補

自賠責保険から、原告吉川嘉一(以下「嘉一」という。)に対し一九五万円が、原告吉川富美子に対し一二〇万円が、いずれも支払われた。

二  争点

1  原告らの受傷程度、相当治療期間、後遺障害と本件事故との相当因果関係被告らは、本件事故は軽微なもので、原告車の運転者、他の同乗者、松本車の運転者、同乗者は負傷していなかつたものであり、原告らの受傷は高々三ないし四か月の通院治療で足りる程度の傷害であつたとして、原告嘉一の治療期間、後遺障害、原告富美子の治療期間、入院治療の必要性について争う。

2  損害額

とくに、休業損害、後遺障害による逸失利益

第三争点に対する判断

一  原告らの受傷程度、相当治療期間、後遺障害と本件事故との相当因果関係

1  前記事実に、証拠(甲一、二、九、一一)、弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件事故は、被告望月が脇見をし、先行車両である松本車が停止していたのを六・七メートル前方に発見し、急ブレーキをかけたが及ばず、松本車に追突し、押し出された松本車が原告車に追突し、原告車も押し出されたもので、被告車には左前ボンネツト、バンパー凹損・押し込みの損傷が、松本車には後部右テールランプ割損、後部バンパー凹損、前部バンパー・ボンネツト凹損の損傷が、原告車には、後部バンパー・ボデイー凹損の損傷が残った。原告車の右損傷の修理費用として二三万円余りを要した。

なお、本件事故後、松本車の松本、原告車に乗っていた者全員が救急車で九条病院に搬送されたが、原告両名を除いた者らは治療を要しなかつた。

(2) 原告嘉一は、本件事故当時、六一才(昭和五年一一月八日生)の健康な男子であつたが、本件事故当日、九条病院で治療を受けた後、翌平成四年八月三〇日、右下肢の知覚異常、だるさを訴えて協愛病院で受診し、頸部の可動域制限、ジヤクソン、スパーリング両テストはいずれも疑陽性、レントゲン検査では頸椎の骨折、ズレは認められず、頸部捻挫と診断され、平成五年一〇月七日症状固定と診断されるまで、投薬、注射、理学療法による治療がなされた。原告嘉一の通院は、平成四年八月―二日、九月―二三日、一〇月―二六日、一一月―二三日、一二月―二四日、平成五年一月―二三日、二月―二三日、三月―二六日、四月―一七日、五月―二一日、六ないし一〇月―八二日であった。

平成五年一〇月七日の症状固定時の自覚症状は、左上肢の動作時痛、両手指先端のビリビリするしびれであり、他覚症状として、両手指の掌側の知覚過敏、握力が右三五キログラム、左三〇キログラム、右上・前腕のしびれ感、レントゲン検査による頸椎の変形等が認められ、自賠責保険で、自賠法施行令二条別表後遺障害等級表一四級一〇号の後遺障害の認定を受けた。

(3) 原告富美子は、本件事故当時五四才の健康な女子であつたが、本件事故当日、九条病院で治療を受けた後、翌平成四年八月三〇日、左側後頭から腰部にかけての痛みなどを訴えて協愛病院で受診し、頸部捻挫、腰部挫傷、僧帽筋部分断裂と診断され、平成五年一〇月七日症状固定と診断されるまで、投薬、ブロツク注射、理学療法による治療がなされたが、断続的な後頭部から後頸部への痛みは残存した。原告富美子の通院は、当初の三七日の入院を除き、平成四年八月―二日、一〇月―二〇日、一一月―二三日、一二月―二四日、平成五年一月―二三日、二月―二三日、三月―二六日、四月―一七日、五月―二一日、六ないし一〇月―八二日であった。

以上の事実が認められる。

2  右事実、とくに、原告車の損傷の程度、原告富美子が僧帽筋部分断裂の傷害を負つたことなどによると、本件事故による衝撃は、決して軽微ではなく、原告らの受傷が本件事故によるものであることは容易に認められ、その症状、治療経過に不自然な点は認められず、医師の診断のとおりの治療を要し、原告嘉一には一四級一〇号の後遺障害が残存したと認めることができる。原告富美子の入院治療も、前記傷病に照らすと、当初安静治療を要したものと推認でき、不相当とはいえない。

原告ら以外の本件事故当事者が治療を要しなかつたことは、年齢等個人差によるものであつて右認定を覆すものではない。

二  原告嘉一の損害額(以下、各費目の括弧内は原告ら主張額)

1  治療費(七一万一一九〇円) 七一万一九〇〇円

証拠(甲三の2、五の1、六の1ないし19)によれば、症状固定までの治療費は九条病院が二万四五五〇円、協愛病院が六八万六六四〇円であることが認められ、合計すると、七一万一九〇〇円となる。

2  休業損害(二一三万四四〇〇円) 一九二万〇九五九円

証拠(甲三の1、3、四の1、3、検甲一の1ないし3、原告嘉一、同富美子各本人)によれば、原告嘉一は、本件事故当時、六一歳で、妻である原告富美子の協力を得て、アルバイトを一人雇い入れて、昭和四七年頃から京阪萱島駅前で「卯づき」の屋号で井物・麺類を中心とした飲食店を自営し、自らが調理、出前等を行つて午前一〇時三〇分から午後一〇時まで営業していたものであるが、本件事故のため、前記のとおり受傷し、原告富美子も入院するなどして、平成四年一一月末まで閉店を余儀無くされ、その後も原告両名とも前記のとおり症状が続き、リハビリ等のため通院していたため、平成五年五月末まで閉店時間は午後六時、出前はしないという従前とは縮小した営業を行わざるを得なかつたことが認められる。

ところで、本件事故前の原告嘉一の所得は、その営業状態によれば、少なくとも平均賃金である四二六万八八〇〇円(平成四年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規摸計・男子労働者・学歴計・六〇ないし六四歳)を得ていたことが推認され、前記閉店、あるいは営業の縮小により、当初三か月は一〇〇パーセント、その後六か月は四〇パーセント程度の減収を認めるのが相当であるから、原告嘉一の休業損害は、一九二万〇九五九円となる。

なお、確定申告(甲一〇)によるべきであるとの被告らの主張は、申告額があまりに低額で生活実態を反映していないことが明らかで採用できない。

(計算式)4,268,800÷12×(3+0.4×6)=1,920,959

(小数点以下切捨て、以下同様)

3  入通院慰謝料(一〇五万円) 八〇万円

前記認定の本件事故による原告嘉一の傷害の部位、程度、治療経過、症状固定までの通院期間、実通院日数等に照らすと、慰謝料として八〇万円が相当である。

4  後遺障害による逸失利益(五八万二九〇四円) 五五万七五〇五円

証拠(甲三の3、原告嘉一本人)によれば、原告嘉一は、本件事故に至るまで長年飲食店で調理を行つてきたが、本件事故のため、指先のしびれ等により、調理作業等に支障を来していることが認められ、これによれば、労働能力は症状固定時から三年間は五パーセント喪失したと認めるのが相当であり、前記所得を基礎としてホフマン式計算法により本件事故発生時から年五分の中間利息を控除すると、逸失利益の現価は、五五万七五〇五円となる。

(計算式)4,268,800×0.05×(3.564-0.952)=557,505

5  後遺障害慰謝料(七五万円) 七五万円

前記認定の原告嘉一の後遺障害の程度、その生活への影響等を総合勘案すると、七五万円が相当である。

6  小計

以上によれば、原告嘉一の本件事故による損害額(弁護士費用を除く)は、四七四万〇三六四円となり、前記既払金一九五万円を控除すると二七九万〇三六四円となる。

7  弁護士費用(三〇万円) 三〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は三〇万円と認めるのが相当である。

三  原告富美子の損害額(以下、各費目の括弧内は原告ら主張額)

1  治療費(八八万九六九〇円) 八八万九六九〇円

証拠(甲四の2、五の2、七の1ないし20)によれば、症状固定までの治療費は九条病院が三万一四五〇円、協愛病院が八五万八二四〇円であることが認められ、合計すると、八八万九六九〇円となる。

2  入院雑費(四万八一〇〇円) 四万八一〇〇円

前記認定事実によれば、原告富美子の入院期間は平成四年八月三一日から同年一〇月六日までの三七日間であり、一日当たりの入院雑費は一三〇〇円同年一〇月六日までの三七日間であり、一日当たりの入院雑費は一三〇〇円が相当であるから、四万八一〇〇円となる。

3  休業損害(一六四万八〇五〇円) 一三一万八四四〇円

証拠(甲三の1、3、四の1、3、検甲一の1ないし3、原告嘉一、同富美子各本人)、弁論の全趣旨によれば、原告富美子は、本件事故当時、五四歳で、主婦として稼働する一方で夫である原告嘉一の経営する飲食店の手伝いをしていたが、本件事故のため、前記のとおり受傷し、原告富美子も入院するなどして、平成四年一一月末まで閉店を余儀無くされ、その後も原告両名とも前記のとおり症状が続き、リハビリ等のため通院していたため、家事に支障を来すとともに、平成五年五月末まで閉店時間は午後六時、出前はしないという従前とは縮小した営業を行わざるを得なかったことが認められる。

右によれば、原告富美子は、本件事故後三か月は一〇〇パーセント、その後、六か月は平均して三〇パーセント程度就労能力に制限があつたものと認めるのが相当であり、原告富美子は主婦であるから、平均賃金である三二九万六一〇〇円(平成四年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・女子労働者・学歴計・五〇ないし五四歳)を基礎として、休業損害を算定すると、原告富美子の休業損害は、一三一万八四四〇円となる。

(計算式)3,296,100÷12×(3+0.3×6)=1,318,440

4  入通院慰謝料(一二〇万円) 一〇〇万円

前記認定の本件事故による原告富美子の傷害の部位、程度、治療経過、症状固定までの入通院期間、実通院日数等に照らすと、慰謝料として一〇〇万円が相当である。

5  小計

以上によれば、原告富美子の本件事故による損害額(弁護士費用を除く)は、三二五万六二三〇円となり、前記既払金一二〇万円を控除すると二〇五万六二三〇円となる。

6  弁護士費用(二五万円) 二〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は二〇万円と認めるのが相当である。

四  まとめ

以上によると、

1  原告嘉一の本訴請求は、被告ら各自に対し金三〇九万〇三六四円及び内金二七九万〇三六四円に対する不法行為の日である平成四年八月二九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、

2  原告富美子の本訴請求は、被告ら各自に対し金二二五六二三〇円及び内金二〇五万六二三〇円に対する不法行為の日である平成四年八月二九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 高野裕)

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